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Tuesday, February 25, 2020

「常に変化しながら自分の道を選びたい」──リム・キムが目指す新しい「K-POP」。 - VOGUE JAPAN

「歌手を目指したきっかけ? 育った環境から影響を受けたわけじゃないです。お母さんとはあんまり仕事については話さないし、多分、私がなにをやってるかさえよくわかってないと思う(笑)。昔からああしろこうしろとは言われなかったし、やりたいことをやらせてもらえていて。なんというか、いつも“インディペンデント”って感じ」

リム・キムは幼いころを振りかえり、そう言って笑った。韓国人女性アーティストとして「アジア」と「女性」を大きなテーマとして掲げた彼女が2019年10月に発表したアルバム『GENERASIAN』は、いま韓国や日本のみならず、世界中で話題となっている。美術教育に携わる母のもとで幼いころからアートに触れ、10代のころはカナダやアメリカなど海外で暮らすことも多かった彼女が、韓国で歌手になる道に進んだのはただの偶然だったのかもしれない。ある日音楽番組「スーパースターK3」に応募することを決意したリムはしかし、見事デビュー果たし、「K-POPシンガー」になっていく。

音楽は“目的”から“手段”へ。

ところが、男女デュオ「Two Months」での活動を経てソロ活動を開始したリムを、K-POPの世界はインディペンデントでいさせてくれなかった。「若手」「女性」「K-POPシンガー」など、“売りやすい”パッケージングがなされていく過程で、リムは社会の生きづらさに気づくと同時に、自分と向き合うことを余儀なくされた。

「それまではただ歌手になることを考えていたんだけど、もっと自分でアイデンティティを表現しなきゃと思うようになった。誰かに勝手に既存の型にはめられるなんて、おかしいでしょ?」

そのときから、リムにとって音楽は「目的」ではなく「手段」となったのかもしれない。その後2016年から数年の活動休止期間を経て、2019年に活動を再開した彼女は、『GENERASIAN』を通じて音楽面でもビジュアル面でもこれまでにないアジアの女性像を打ち出した。既存のファンを含む多くのリスナーに衝撃を与えた本作は、米ビルボードが選ぶ2019年のK-POPベストアルバム25にも選出されるなど、新たなK-POPのかたちを提示してもいる。

「K-POPの若手シンガーが急にアイデンティティを表現しようとするなんて、無謀な冒険みたいな感じだよね」

リムはそう笑うが、その冒険は見事に成功したといえそうだ。

彼女の冒険は、単にチャート上の評価にとどまらず、確実に韓国・ソウルの音楽シーンを変えつつある。たとえば2019年12月に韓国のストリートブランド「MSCHF」の店舗で行なわれたポップアップライブや、ソウル随一のクラブ「Cakeshop」で行なわれたアフターパーティには多くのファンが集まり、実に会場の8割以上を女性客が占めたことはクラブ側にとっても新鮮かつ刺激的な出来事だったようだ。

「もちろん、みんなが支持してくれているわけじゃないのは知っている。とくに『アジアの女性』というテーマについては賛否両論がある。でも、わたしのファンは割とどちらにも偏らず、一緒に考えてくれるような人が多いかも。新しい冒険を一緒に楽しんでくれてるっていうか。それはみんなもわたしと同じように、つねに変化しながら自分たちの進むべき道を選ぼうとしているからなんじゃないかな」

ナム・ジュン・パイクとの共通点。

とはいえ、リムもそう簡単に自分の進むべき方向が見つけられたわけではない。2016年、所属していた事務所から離れたリムは、アイデンティティと向き合うべく、現代の映画や文学から古典音楽、歴史遺産にいたるまで、さまざまなものを調べはじめる。それは終わりの見えないつらい時間でもあった。

「形が見えてくるまではすごく大変だった。たとえば音楽ひとつとっても、正直わたしの世代は韓国の古典を聴いてもピンとこない。でもだからこそ、距離の遠い古典的なものを切り捨てるんじゃなくて、わたしたちのジェネレーションらしい感覚から捉え直し、表現できることを見つけたくなったのかもしれない」

リサーチの過程でリムに大きな示唆を与えたのは、意外にも「ビデオアートの父」として知られるナム・ジュン・パイクだった。

「彼はわたしにちょっと似ていると思わない?」

1930年代に生まれたナムと、1990年代に生まれたリム。生まれた時代も育った環境も異なるが、ナムもまた海外生活を通じて自身のアイデンティティと向き合い、韓国で暮らした幼少期の思い出からインスピレーションを得て、いくつもの映像作品やインスタレーションを生み出していったアーティストだ。

「とくに彼の作品のなかに感じられるシャーマニズムはすごく刺激的。彼の表現はデジタルアートやパフォーマンスだけれど、韓国の文化のなかで歌ったり踊ったりすることは、シャーマニズムのような精霊性を伴っているというか。それってK-POPのような韓国のエンターテインメントにもつながっている感覚だと気づいたんですよね」

共鳴は広がっていく。

2019年大晦日から2020年元日にかけて、渋谷のWWWにて行なわれたイベント「INTO THE 2020」に出演したリム。多くのオーディエンスが、リムの力強いパフォーマンスに魅せられていた。

ナム・ジュン・パイクという“先輩”に導かれるようにして新たなアジア観を提示していくことを決意したリムは、徐々に仲間を見つけていく。なかでも彼女にとって大きな存在となったのは、ジェントル モンスター(GENTLE MONSTER)など韓国の人気ブランドのプロジェクトなどを手掛ける気鋭のビジュアルディレクター、メイ・キムだ。メイとの出会いはリムにとって、非常に重要なものだったという。

「Instagramでメイを見つけて、わたしから連絡してみたんです。それまでは、ぜんぜんフィーリングの合う友だちがいなくて。話してみたら意気投合して、同い年なこともわかって。メイを通じてどんどん友だちが増えていったんです。『GENERASIAN』をリリースしたことでメイにも新たな仕事のオファーが来たみたいだし、共鳴が広がっている感じ。彼女のまわりにいる同世代のクリエイターとなにかをつくることも増えたし、一緒に成長している感じ。メイとは仕事として割り切らずに、いろいろ話すようにしているの。気になる人がいたら、これからも積極的にコラボレーションしていきたい」

自身の作品の制作や友人とのコラボレーションを振り返りながら、リムは折に触れて「話す」「会話」「対話」という言葉を口にする。

「話すことが必要だと思うんです。みんなが話し合う機会がもっと増えたらいいな」

それは友人同士の会話に限ったことではない。彼女がテーマとする「アジア」や「女性」について社会のなかでも議論される機会は増えており、だからこそ自身の作品は受け入れられたのだとリムは続ける。

「3年かけてこのアルバムをつくったけれど、もし3年前にリリースしていたら、みんな理解してくれなかった気がします。この数年間で社会が変わって、みんなオープンに対話できるような状況になったんじゃないかな。ただ、一方ではまだまだ壁も多い。わたしは以前の活動が多くの人に知られていたから、いまのような状況をつくれただけなのかもしれないし」

新しい“インディペンデント”のかたち。

だからこそ、リムは自分らしさをキープしながら、もっとたくさんの人との対話を求めるのだろう。

「わたしがデビューしたころはオーディションくらいしか機会を広げる選択肢がなくて、いまの自分のような活動はありえなかった。わたしがインディペンデントでいることで若い世代に刺激を与えられる気がするし、自分の想いをちゃんとまわりに伝えることで対話を増やしていけたらなって」

かつてインディペンデントであることは、リムにとってひとりで自分と向き合う孤独な態度だった。でも、いまは違う。彼女のまわりには多くのクリエイターが集まり、同時多発的に共鳴が生まれている。たくさんの異なる考えを持った人々と会話し、意見を交わしながら変わっていくこと。それこそがリムにとっての新たな“インディペンデント”のかたちなのかもしれない。

Photos: Takako Noel (Portrait), Masami Ihara (Live) Hair&Make-up: Yosuke Nakajima Interview: Yoshiko Kurata Text: Shunta Ishigami

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February 26, 2020 at 10:06AM
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