ペースメーカーがフルマラソンを最後まで走り抜くという珍しい光景があった。先頭集団のペースメークをした川内優輝(33=あいおいニッセイ同和損保)も、ひそかに42・195キロを完走した。記録も残る。

40キロまでの予定だった。ただ、一山麻緒(23=ワコール)が少しでもいいタイムを出せるように、先導を続けた。結局、ゴールのヤンマースタジアム長居に入る直前まで、一山を引っ張り、ラストスパートを手助け。予定の距離を過ぎて先導しても、ルール上は何も問題はなく、記録を狙うレースならではのシーンだった。そしてゴールの競技場に入ると、ペースを落として、一山から離れた。

もちろん主役は2時間21分11秒の大会記録で走った一山。その後、川内できるだけテレビにも映らないように気づかったのか、トラックの外側を走り、目立たないようフィニッシュラインを超えた。一山がゴールした45秒後のことだった。

過去に107回のフルマラソン完走をしている川内。そんな幾多の経験を持つ男も、ペースメーカーとしてのフルマラソンを走り抜いたのは、さすがに初めてだった。

レースでは、ペースメーカーとして、中盤まで機械のように正確にラップを刻み、日本記録を目指していた一山をアシストした。一山のペースが落ちると、設定タイムよりも下げて、臨機応変に対応した。「行けるよ」「頑張れ」などと、言葉をかけ続け、励ましていた。

一般的にペースメーカーは30キロや中間点までで、そこで走り終わる。大会関係者は「ペースメーカーが完走するのは異例なことだが、あそこまで走ったから最後まで走ろうと思ったのではないかと想像している」と話した。

今大会は新型コロナウイルスの感染防止のため、大阪市の長居公園内を約15周し、ヤンマースタジアム長居にゴールするコースに変更された。従来はヤンマースタジアム長居が発着点で、市内を巡るコース。しかし、沿道の密を防ぎ、ボランティアの人数の削減を図るため、公園内に限定する形での開催に至った。