グレグ・ノーマン(オーストラリア)が、サウジアラビアの資本をバックに立ち上げた新ツアー「LIV招待」によって、揺れに揺れた今年の男子プロゴルフ界だったが、米男子ツアーの2021~22シーズンは、ある意味、理想的なエンディングを迎えた。
ロリー・マキロイ(英国)は、8月25日から28日までジョージア州のイーストレークGCで行われたフェデックスカップの最終戦「ツアー選手権」の最終日、トップのスコッティ・シェフラー(米国)と6打差の2位からスタート。7番で早くも追いつき、14番で一歩後退したが、15番で再び追いつき、16番でリードするとそのまま逃げ切った。マキロイは通算3度目の年間王者となり、1800万ドルのボーナスも手にした。
ただ、手にしたものは、それだけではない。彼は今後、長きにわたり、本人が望むと望まざるにかかわらず、ゴルフ界のリーダーとして確固たる地位を築くことにもなった。
今年に入って、構想が明らかとなったLIV招待。人権問題を抱えるサウジアラビアが絡んでいるとあって、真っ先に移籍を決断したフィル・ミケルソン(米国)でさえ当初は、懸念を抱いた。
しかし、ミケルソンらトップ選手には1億ドルを超える移籍金が用意されたよう。ビジネスと割り切り、20年の全米オープンを制したブライソン・デシャンボー、過去4度、メジャー大会に勝っているブルックス・ケプカ、12年と14年にマスターズ・トーナメントで優勝したバッバ・ワトソン(すべて米国)らは、移籍を決断した。直近では、全英オープン覇者のキャメロン・スミス(オーストラリア)が、「ゴルフの将来のあり方は、LIV招待にある」として、ツアー選手権終了後、米男子ツアーとのたもとを分かっている。
この問題に関しては当初、多くの選手がコメントすることに消極的だった。言葉を濁した選手らには声がかかり、迷っていたのだろう。そんななか、マキロイは、米男子ツアーが下したLIV招待参加者のツアー資格停止処分などを「会員規定に沿った決断を下したまで」などと支持し、一貫してLIV招待の対立をあおるような運営に批判的だった。同じ思いであったとしても、誤解されることを恐れ、言葉にすることをためらった選手らの声を代弁し、彼の言葉により、米男子ツアーの将来性に不安を抱く選手らは、励まされたりもした。
もちろん、マキロイは、21年にプレーヤーアドバイザリーカウンシル(PAC)の会長を務め、現在はプレーヤーディレクターの一人であるという立場。発言を求められれば、選手側の公式見解を発信する責を負うが、それを超えて、個人的な意見も交えながら、正直に胸の内をさらした。彼はその思いを、先日も米CNNテレビの取材でこう答えていた。
「この問題に関わることで、もっとも大切なこと、例えば、家族やゴルフの時間を奪われる。しかし、自分の信じていることを訴えることは必要。それをしてきたつもりだし、これからもしていきたい」
自分だけではなく、ゴルファー全体の権利を考え、正しいことを正しいと信じ、訴える。その姿勢にファンも心を揺さぶられた。
またマキロイは、「同時に自分は、世界で一番のゴルファーにもなりたい」と話した。
彼はツアー選手権の勝利でそれを証明。仮にマキロイに実力が伴わなければ、誰も彼にはついていかなかったかもしれないが、昨季のメジャー大会では4大会すべてでトップ10入り。母国で行われた全英オープンでは、最後まで優勝争いをして盛り上げた。彼は、言葉で、そしてフィールドで、リーダーとしてあるべき姿を示したのだ。
さて今後、彼は、どう動くのか? マキロイは「LIV招待に居場所はない」と、厳しい表現を用いる一方で、彼らとの共存をあきらめてはいない。LIV招待への共感はなくとも、「友人と呼べる選手もいるから」と胸の内を吐露。選手の分断には心を痛めているのだ。「それが近い将来、実現するとは思えない」とも顔を曇らせるが、策を探り続ける。
いずれにしても今回、マキロイという強烈なリーダーシップがなければ、選手らはバラバラになっていたはず。彼がいたからこそ、選手らはまとまった。
もちろん、移籍を決めた選手もいたが、「それは、選手個々の決断」とそれを尊重するなど、理解も示す。おそらく、今季の最優秀選手には、4勝を挙げ、マスターズ・トーナメントを制したシェフラーが選出される見込み。ただ、マキロイは、選手から、そして米男子ツアーに関わる全ての人から、決して勝つことだけでは得られない信頼を得た。
からの記事と詳細 ( 新ツアーに揺れる米ゴルフ界 信頼を得たマキロイ(写真=ロイター) - 日本経済新聞 )
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